2026年8月28日、畠山美術館を訪れました。
この日に見たかったのは、「茶の道具と銘をめぐる物語」の展示。
茶の湯で使われる茶碗や茶入などには、それぞれに銘がつけられているものがあります。その名前に込められた物語や、そこから広がる世界を見てみたいと思い、訪れました。
けれど、実際に足を運んでみると、展示だけではなく、庭や茶室にも心を奪われました。
ちょうど季節は夏の終わり。庭には、初秋を感じさせる植物が見られました。
茶の湯の庭に咲いていたキキョウ
まず目に入ったのが、キキョウ。

すっと伸びた茎の先に、紫色の花。
秋の七草のひとつでもあるキキョウを見ると、夏から秋へ季節が移っていくことを感じます。野原で見るキキョウとはまた違い、茶室のある庭に咲く姿はどこか静か。華やかさを前面に出すというより、庭の景色の一部として、そこに佇んでいるように見えました。
いたるところで名残のキキョウが見られ、8月初旬には亭主はこれらの中から選び、茶室に生けるのだろうかと想像しました。
シュウカイドウとヤブラン
庭ではシュウカイドウも見つけました。
少しうつむくように咲く花が印象的で、キキョウとはまた違った趣があります。
その近くにはヤブランも。
夏の名残を感じさせる植物と、秋の気配を感じさせる植物が同じ庭の中にありました。
8月の終わりという時期は、季節の境目。まだ夏なのか、もう秋なのか。そんなことを考えながら植物を見るのも、この時期の植物観察の面白さなのかもしれません。

<参考>
マンリョウ、センリョウ達はまだ緑
そして、実をつけた植物も見つけました。
マンリョウとセンリョウ。

どちらも実はまだ緑色です。お正月などに赤い実をつけた姿を見ることが多い植物ですが、8月末の庭では、これから色づいていく途中の姿でした。
ムラサキシキブとカクレミノにも実がついていましたが、こちらもまだ緑色。

紫色の実になる前の姿を見ると、植物の一年には、私たちが普段目にしている「完成した姿」だけではなく、その前段階があることを改めて感じます。
赤や紫の実を想像しながら、今はまだ緑色の実を見る。そんな時間も、植物観察の楽しみのひとつです。
庭の中にいくつもの茶室
畠山記念館では、展示だけでなく、庭と茶室も印象に残りました。
庭の中には茶室がいくつかあり、それぞれの空間を眺めながら歩くことができます。

茶室そのものを見るだけでも興味深いのですが、そこに先ほど見た植物が加わることで、茶の湯が自然と切り離されたものではないことを感じました。
花を生け、掛物を掛け、茶碗を選ぶ。
そのとき、その場所にある季節を取り込む。
庭に咲くキキョウや、まだ緑色のマンリョウ、センリョウ、ムラサキシキブを眺めていると、「季節を感じる」ということが、茶の湯の中ではとても大切にされてきたのだろうと思います。
不昧公ゆかりの茶室と、心に残った茶道具
茶室の中には、不昧公ゆかりのものもありました。(不昧公に関するツバキの記事はこちら)展示では、井戸の茶碗も見ることができました。実物を前にすると、写真や文章で見るのとは違う美しさがあります。
さらに、教科書で見たことのある秀吉の絵も。
茶の湯について詳しく知れば知るほど、ひとつの茶碗や一枚の絵の背後に、たくさんの人物や歴史、物語がつながっていることが分かります。
今回の「茶の銘の物語」という展示も、まさにそうでした。
ひとつの名前から、その背景にある物語へ。
茶道具を眺めているだけなのに、そこから歴史や人の営みへと世界が広がっていきます。

*雑誌にも良く取り上げられている空間です。私の写真の腕でも大変美しく見えませんか?すべてが現代的な洗練ではなく、茶道の文脈での研ぎ澄まされた、無駄なものがない洗練の空間でした。
「檻前山青水緑」
この日に特に印象に残ったのが、茶室に掛けられていた軸。
「檻前山青水緑」
読み方: 「檻前に 山青く 水緑なり(かんぜんに やまあおく みずみどりなり)」
筆者: 玉舟宗璠(1600–1668) 江戸時代初期の大徳寺第185世住持。臨済宗の高僧であり、大徳寺三玄院の住職や、京都・紫野の大徳寺本山で重きをなした人物です。 茶の湯との縁も非常に深く、千利休の孫である千宗旦(江岑宗旦)や、大名茶人の小堀遠州らと深く交流し、多くの茶人に禅語の軸(一行物)を書き残しました。
山は青く、水は緑。目の前にある自然の景色を、そのまま受け取るような言葉です。
私はこの軸の前で5分ほど時が止まりました。目の前のことに本当に目や心を向けられているか自問自答しました。
その後庭を歩くと、キキョウの紫、ヤブランの緑、シュウカイドウの花、そしてまだ色づく前のマンリョウやセンリョウ、ムラサキシキブの実が目に入ってきました。
植物を名前で見ているだけではなく、
「今、この庭にはどんな季節があるのだろう」
と考えながら眺める。
そんな見方をすると、庭の景色が少し違って見えてきます。
植物を見に行ったはずが、茶の湯の世界に包まれていた
今回、私は「茶の道具と銘をめぐる物語」を見に畠山美術館へ行きました。けれど、帰る頃に心に残っていたのは、展示品だけではありませんでした。
庭に咲いていたキキョウ。
シュウカイドウやヤブラン。
まだ緑色だったマンリョウ、センリョウ、ムラサキシキブの実。
そして、その先にあった茶室。
茶道具や絵、掛軸。
それらが一つの空間の中につながっていました。植物を観察していると、ときどき、その植物が置かれている場所の文化まで見えてくることがあります。今回の畠山記念館は、まさにそんな場所でした。
夏の終わりと秋の始まりのあいだ。まだ緑色の実を眺めながら、少しずつ秋へ向かっていく庭を歩く。茶の湯の世界に触れながら季節を感じる、とても豊かな時間でした。


コメント