秋海棠と花海棠|季節を映す二つの“海棠”の名の由来

植物×歴史

先日、秋海棠を見て心惹かれ(記事はこちら)、春の花海棠との違いに興味を持ちました。
両方とも桃色の花をつけますが、季節は違います。気になって調べてみたら、その変遷が分かり、とても興味深かったので共有いたします。

海棠という名の響き

「海棠(かいどう)」という言葉は、もともと中国でナシやリンゴの仲間を指す植物名でした。
しかし唐の詩人たちは、その花姿の優雅さを“美人のごとし”と讃え、やがて「海棠」は**“美しい花”や“美女の象徴”**を意味するようになります。春に咲く「花海棠(はなかいどう)」は、この美意識を受け継いだ花です。
日本でも平安の頃からその艶やかな花姿が愛され、江戸時代には庭園の人気樹として広まりました。


春の花海棠:艶やかに咲く“春の海棠”

花海棠は、バラ科リンゴ属の落葉小高木。
桜と同じ時期に咲き、淡紅色の花を枝いっぱいに垂らす姿が印象的です。
どこか物憂げでありながらも気品を感じさせる花で、古くから春の美人を形容する花とされてきました。

江戸の浮世絵や俳諧にも登場し、「海棠の花=春の象徴」として親しまれています。


秋の秋海棠:名を受け継いだ“秋の海棠”

やがて、日本では秋にも、花海棠を思わせる花が人々の目を引くようになります。
それが**秋海棠(しゅうかいどう)**です。

秋海棠はベゴニア科の植物で、中国から江戸時代初期に伝わりました。
淡い紅色の花をつけ、木陰や湿った石垣のそばに群れて咲きます。
その花姿が春の花海棠に通じる優しさを感じさせたことから、「秋に咲く海棠=秋海棠」と名付けられたといわれています。


海棠という名に込められた季節の対話

春の花海棠が「はじまりの華やかさ」を映すなら、秋海棠は「去りゆく季節の余韻」を映します。
どちらも“海棠”という名に宿る美の系譜を受け継ぎながら、春と秋、それぞれの光の中で咲いています。

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