東京・上野にある東京国立博物館(東博)。日本最古の博物館として知られ、国宝や重要文化財を多数収蔵していますが、館内の美術品だけでなく、敷地内に広がる庭園や植栽にも注目したいところです。
本記事では、美術鑑賞と植物観察が交差する体験をご紹介します。2025年初夏、名残の藤はこちらで。
美術と植物が出会う場所
東博では、季節ごとに植物をテーマにした展示が行われます。2025年5月の日本館(本館)では、以下のような植物モチーフの作品が目を引きました。
日本館にて出会った植物表現
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藤(フジ)
蒔絵・刺繍など、さまざまな形式で藤の花が繊細に描かれていました。とくに、風に揺れる長い花房の描写に注目。館外ではほぼ散っていた藤も、ここでは「名残の藤」を感じられました。藤棚蒔絵器局、浅葱天鵞絨地紗綾形牡丹藤模様、酒井抱一の四季花鳥図巻 巻上
小袖 白綸子地鼓藤模様、上村松園の焔(複製)
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キリ(桐)
公家や武家の紋所にも使われる桐。小袖 白綸子地鼓桐樹模様
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花菖蒲(ハナショウブ)
端午の節句の風習とも関連づけられ、涼やかな色彩が印象的。
小袖 ウコン綸子地波菖蒲花束模様
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アジサイ(紫陽花)
描かれた紫陽花は、静かな水辺を思わせる存在感。外の庭で実際に咲いていた株と見比べるのも一興です。
色絵牡丹紫陽花花文水注
庭園と敷地で出会える植物たち
館内展示を見終えた後は、ぜひ敷地内をゆっくり散策してみてください。2025年5月下旬、以下のような植物に出会えました。
日本庭園・池周辺
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ムクロジ:淡い黄白色の花が満開。羽根つきの玉の材料としても知られています。
ムクロジについて詳しく知りたい方はこちら。 -
ハス:池に葉を広げ始め、夏に向けて準備中。
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クワ:日本の養蚕文化を支えた樹木です。6月に入れば実が見られるのではないでしょうか。
本館中央・法隆寺宝物館方面
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ユリノキ(チューリップツリー):花が高い場所に咲いていますが、双眼鏡やズームで見ると可愛らしい形が楽しめます。
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ハコネウツギ:白から紅へのグラデーションが美しく、小径を彩っていました。
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左からメタセコイヤ、イチョウ、プラタナス:三種三様の大木が並ぶ姿は、まるで時代を超えて立っているような風格。
出口・上野公園にて
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カラタネオガタマ:白い花を一輪発見。意外な場所にひっそりと。
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ブラシノキ(カリステモン):上野公園の一角で鮮やかな赤い花を咲かせていました。
「内なる植物」と「外なる植物」が響き合う
館内で出会った藤やキリの文様と、外で見たムクロジやユリノキの実物。
「藤の花 名残りと見ゆる 軒のうへ
よそに過ぐれば 香の残りけり」
―作者不詳(古今集)
まさにそんな気持ちを呼び起こす展示と風景の連なりでした。
楽しみ方のヒント
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展示品の植物モチーフに注目してから外を歩くと、「写されたもの」と「実物」との違いや共鳴を感じられます。
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季節ごとに異なる花が咲くため、何度訪れても新たな出会いがあります。
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スケッチや写真記録をつけてみると、植物へのまなざしがより深まります。
基本情報
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開館時間:9:30〜17:00(延長期間あり)
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休館日:月曜(祝日除く)
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庭園公開:春・秋の特別公開期間のみ(2025年春は3月中旬〜6月中旬)
まとめ|藤の余韻とともに
館内で描かれた藤の美しさに見とれ、外では季節の植物が静かに咲く。美術と自然が調和するひとときは、東京国立博物館ならではの体験です。
あなたも、季節の草木と文化財が織りなす静かな時間を、五感で味わってみませんか?
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